わたしは一生に一度の恋をしました
わたしの父親

 暑い夏の季節が過ぎ、九月も下旬に差しかかろうとしていた。

 お母さんが亡くなりまだ二ヶ月も経っていないのに、季節が移り変わろうとしていくのはやるせない寂しさがあった。

 わたしは握っていたシャーペンを机の上に置き、窓の外に目を向けた。そのとき教室の外からわたしを呼ぶ声が聞こえてきた。

「ほのか先輩」

 わたしが廊下に目を向けると、そこには真一が立っていて手招きしていた。わたしに向けられる視線が僅かに増えたように感じる。

 三島さんが西岡に言って以来表立って文句を言う人間はいないものの、影では言われているのだろうという実感はあった。

 わたしは席を立つと、教室の入り口まで歩いていった。

「どうかしたの? というか恥ずかしいから先輩はやめてよ」

 わたしの言葉に真一は苦笑いを浮かべる。真一も周囲の妙な視線に気づいていたのだろうか。

「教室で呼び捨てにするのは気が引けたから。ごめん」

「こっちこそごめんね」

 わたしは素直に謝る真一にそれ以上何も言えなくなった。別に彼に責任があるわけではない。

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