物語はどこまでも!
二章。魔法使いとシンデレラによる駆け落ち事件

(一)

人類の歴史に、『聖霊』という種族が加わり定着し始めたのはおおよそ二十年前のこと。

もともと世界には科学では説明できない神秘に溢れていたが、その正体を明確付けるものはなく机上の討論から机の隅で埃でも被る議論に落ち着いていたが、ある日突如、全人類の前に聖霊が姿を表したのだ。

一つ二つ程度の話ではなく、それこそ人類の隣人でもあったかのように誰もが一斉に目にするほどの数だった。

正体不明生物の出現により、人類は混乱するも、それも数ヶ月もしない内に終息したのは“導き手”がいたためだった。

全ての聖霊を統べるモノと名乗る者。要は聖霊の王さまなのだが、かの方は善良であった。

かの方は言った。
この世界に平穏と平和を。
全ての生き物に幸福と繁栄を。

それを実現するために聖霊はかの方の力で顕現をしたのだとーー

世界そのものの法政(ルール)を根本から覆す存在に人類は最初非難したそうだ。しかしながら、聖霊たちの出現により人々の生活は豊かになった。

聖霊は奇跡を起こせた。彼らにとっては当たり前の力であれ、人類にとっては自分たちの力でどうにも出来ない奇跡にも等しいことを彼らはやってみせたのだ。

天災をなくし天候を操る。世界は潤い、枯れた大地に花が咲く。

難病に苦しむ者あらば癒す。飢える者あれば満たす。悲しみに明け暮れる者があれば手を伸ばす。

人々の願いを聞き入れ、無償で叶えてくれる存在を人類が受け入れないわけがない。

聖霊たちばかりが酷使されていると最初はその形に反発する人もいたが、不思議と人々は満たされていると周りに優しくなるものだった。

自身の隣人たる聖霊に愛情を持って接する者が増える。無論のことながら、人間には意思があり、聖霊とて個体によっては人間と大差ない知能を持つ者もいる。『自身の考えを持っている生物』ならば、少なからずも悪い方向に向かう輩はいよう。けれど、必ず誰かが止めに入るのだ。

人類でも、聖霊でも。今のこの素晴らしい世の中を守りたいと思うのだ。


己が欲望に基づく小さないざこざはあろうとも、そういった事件発生数をグラフにすれば毎年減少し、いずれはグラフの数値が0になるとも言われているほど世界は平和になっていた。自殺者も減り、戦争という言葉をここ数年は聞いていない。

かの方が言った通りに、今の世の中は幸福に満ちあふれていた。




< 11 / 141 >

この作品をシェア

pagetop