千日紅の咲く庭で
Gentian
岳が出て行ってしまってから、家の中はなんだかやけに物静かだった。

早めにベッドに入ったというのに、夜は眠れずにゴロゴロとしていたら時間が過ぎていった。


目を瞑っても思い出すのは東谷君に真剣に口説かれたことより、岳に勢い任せにぶつけられたキスのこと。


私の唇には、岳の感触がまだ鮮明に残っている。
思い出すだけで、私の心臓の音がやけに大きく高鳴ってしまう。

29年間の記憶を辿ってみても、そう、小さい頃のことを思い出してみても、岳とキスしたことなんてなかったのに。

一体、どうしたっていうんだ、岳は。


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