祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―

現れた不協和音

「陛下、ここ最近の後宮で起こった祓魔の件についてまとめてみました」

 他に誰もいなことを確認し、エルマーが執務途中のヴィルヘルムに声をかける。エルマーから受け取った紙を、ヴィルヘルムは厳しい目で見つめた。

「ばらばらのように見えて、場所が固まっているな」

「ええ。塔も広いのに、東階段の部屋に偏っています。これを偶然と呼んでいいのかは分かりませんが、こうなると次に被害にあうのは……」

「陛下、来客です」

 ノックをされたが、こちらの返事を待たずにドアが開けられた。

「誰が何用だ? 今はそれどころじゃない」

 クルトが静かに告げた言葉を邪険に突っ返す。しかしクルトは表情ひとつ変えずに、来客の名を告げた。おかげでヴィルヘルムはその名を聞き、渋々と椅子から腰を上げたのだった。



「お久しぶりです、陛下。突然、申し訳ありません」

「どうされた、ノルデン方伯」

 自分の息子とさして年も変わらない王に、恭しく頭を下げているのは、北の領地を管轄するノルデン家の現当主だった。

 細身で、ぎょろりとした目は深海魚を思わせる。どこか落ち着きがなく、方伯の中でもヴィルヘルムは特にこの男が苦手だった。

「娘が後宮に輿入れしてから、いい報せを聞かないものでして」

 単刀直入に言われた言葉に王は眉をつり上げる。そして、やはりという気持ちしか湧いてこない。
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