祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―

哀しい嘘 優しい偽り

「お前に悪魔が憑いてるわけじゃないさ。お前が悪魔を封じているんだ」

 一通り話し終えたルシフェルはおかしそうに、リラを指差した。真実を知った今でも、リラはどこか夢でも見ているかのような気持ちだった。

 哀しい、結ばれなかったふたりの話。すべてはこの王家を守るためについた大きな嘘。ただ、自分の祖先が王家と対立して呪いをかけたわけではないという事実に気持ちが少しだけ救われる。

 それにしても、自分で悪魔を封じているなどという意識はまったくない。この中に悪魔がいるなんて。リラは自分の胸にそっと手を当てた。

「無意識とは余計に恐ろしい。その血がずっと縛っている。深い眠りにつかされ、たまに眠りから覚めたときに、そうして外見に現れてくる。いい目印だろ」

「呪いは!? 王家にかかった呪いはどうすれば解けるの?」

 からかうような口調のルシフェルにリラはようやく反応した。ルシフェルはいつのまにかリラと同じように腰を下ろし、くつろぐ素振りを見せている。

「解けるわけないさ。それは呪いではなく契約だ。本当ならヨハネス王の血を引く者は全滅しているはずなのに、お前に封じられているせいで、ほとんど効力を発していない」

 黒い薔薇が咲けば三年で命を落とす呪い。あれは逆で、本来ならとっくに刈られている命を、なんとか悪魔の力を抑え込み、ギリギリまで伸ばしていたのだ。

「もしも私が、陛下に残っているものも、すべてを封じることができれば……」

 必死で考えを巡らせ、呟いた独り言に対し、ルシフェルはつまらなさそうに手を振る。
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