祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―

甘く飼い慣らされる日々の先に

「マリー。次はこっちのベッドメイキングお願いできる?」

「はい、こちらが終わったら」

 マリーと呼ばれた女性は顔を上げて、同僚に軽く返事をした。チョコレート色の髪を、後ろで緩く束ね、シーツの皺を伸ばすように整えていく。そんなマリーの様子を見て同僚の女は続ける。

「ねぇ、マリーって本当は目が見えているんじゃない? なんでそんな正確にできちゃうの?」

 疑う、というより不思議という感じで尋ねられ、マリーは苦笑した。

「まったく見えないってわけじゃないですから。それに、一通り決められたやり方ですから、もう慣れました。旦那さまには感謝してもしきれません」

「よく働くマリーを雇って、旦那さまも得した気分になっているんじゃないかしら? それにしても、あなたがここにきて、もう一年になるのね」

 懐かしそうに告げられ、マリーはヘーゼル色の瞳をそっと閉じる。そして指示された通り、次の部屋に向かおうとすると、さらに声をかけられた。

「今日は、その部屋が終わったら、あとはかまわないから。みんなでパレードを見に行きましょうよ」

「パレード、ですか?」

「そう。ヴィルヘルム陛下の即位四年目を記念して」

 久々に聞いた名前にマリーは手に持っていた真っさらのシーツを落としそうになった。おかげで、足をとられてよろけそうになる。

「ちょっと大丈夫?」

「大、丈夫、です。すみません」

 慌てて手を貸してもらい、立ち上がった。平常心を装って作業を再開させる。
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