祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
 リラの胸が締めつけられる。リラの祖母はずっと体調が悪く床に臥せがちだった。祖母も自分が長くないことを分かっていたのか、リラに大切なことをたくさん教えてくれた。

 だからか、リラも亡くなったときはショックではあったが覚悟はどこかでできていた。

 どちらが悲しい、なんて比べるものではないが、突然、自分の大切な人がいなくなるの、はきっとこの上なく悲しいに決まっている。

 リラはフィーネをじっと見つめた。そして、散々迷った挙句、口を開こうとしたそのときだった。

「さぁリラさま、着きましたよ!」

 努めて明るく告げたフィーネに促され、リラは顔を上げて前を見た。前に進むのが精一杯ではあったが、なんとか広間までついたようだ。

 ここは、普段あまり使われることがないようで、少しかび臭い。フィーネは奥に駆けると重厚なカーテンを開けた。部屋の中に光が差し込み、埃が舞うのもよく見える。止まっていた時間が動き出したようだった。

 縦長のテーブルに同じ装飾を施された椅子が対面式に三脚ずつ並んでいる。会議でも行われそうな雰囲気だ。そして、壁には絵が飾られていた。肖像画だ。

「これは……」

「これは、我がシュヴァルツ王国の四大方伯の現当主たちの肖像画です」

 疑問を口にしようとしたところでフィーネが先に説明をしてくれた。リラと同じように視線を肖像画に向ける。一列ではなく、横に二枚並び、その真ん中の上に一枚掛かっている。なんとも不思議な並びだ。
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