あなたに捧げる不機嫌な口付け

理不尽だ。

ショコラフィナンシエを齧りながら、諏訪さんの喜色満面すぎる顔を何とはなしに眺める。


諏訪さん宅のお茶菓子は、大抵は近所の洋菓子店のものだ。


種類が豊富だし、季節限定ものもあるし、たまには美味しかったものをもう一度、もしくは、いざ新しい発見へ! などとやっていると充分そのお店で事足りるらしい。


それにしても。


この頻度で会っていて、外出するときを除けば会う度にお茶を飲むのが慣習化しているというのに、よくもつ。


他の人にもお菓子を出すのかと聞いたら、私だけに出している、みたいな答え方だった。


たまに出す人もいるけど、毎回食べるのは私だけらしい。

決して食い意地が張っているわけではない。決して。


私だけだから、何とか一件のお店で間に合っているのかもしれなかった。


普通、手作りだと量を作れない。


お店の邪魔になるから、一人で全てを買い込むわけにもいかない。


買い占めないとなると当然、買う量は限られるはずなんだけど、諏訪さんはお菓子を切らしたことがない。


その上、毎日一つとか言っているくせに、私の分もきちんと確保している。


予約すると、品揃えにないものでも可能な限り要望を叶えてもらえるくらいには通い詰めているようだから、おそらくお願いとやらをしているのも大きいのだろう。
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