あなたに捧げる不機嫌な口付け

付き合っているように見えますか。

「祐里恵、今日暇?」


かかってきたのは諏訪さんからの電話。


開口一番こんなことを言う知人は他にいないので、区別しやすくていいといえばまあそうなんだけど、たまには今時間ある? くらい挟んで欲しい。


暇、という代わりに戒めを投げる。


「裾踏まないでよ」


制服で行って、スカートの裾を踏まれたのは記憶に新しい。


どうせこのまま行くことになるはずだ。


そうすればまたもや制服での訪問になってしまって、その後の手間を考えれば、注意喚起したくもなる。


「踏まない踏まない。カヌレあるよ」

「……行く」


軽い返事についでのようにつけ足された情報に、珍しく意思表示をきちんとすると、諏訪さんが声を上げて笑った。


……笑わないでよ。


私が行くのはカヌレに釣られてじゃないから。決して。


決して、寄った洋菓子店で売り切れていて残念だったとかじゃ、ないから。


「私が食意地張ってるみたいだからそこで笑わないでくれる」

「ごめんごめん……っ」


ふふ、と再び噴かれたのは、とても不本意だ。
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