京都チョコレート協奏曲


「結婚式には呼んでくれよ! おれも頑張んなきゃなー」



ポロッと言ってしまって、マフラーの内側で苦笑いする。


頑張んなきゃって、今の、本心だ。


おれはマフラーを撫でる。



まさか手編みには見えないくらい目の細かい青いマフラーは、実はカテキョの教え子が編んでくれたものだ。


おれは昔からマフラーの感触が苦手で、首には何も巻かない主義だったんだけど、教え子に大いに叱られた。



「大病で入院までしたくせに、体を冷やす格好なんかしたらあかんって、何回言うたらわかるん?」



だよね。


贈られたマフラーをしぶしぶ付けるようになって、あったかいんだなって知った。


くすぐったいけど、悪くない。



編み込みの段だら模様を、指先でなぞってみる。


もらったときには甘いような匂いがしていたマフラーは、3度目の冬を迎えた今、とっくにおれの持ち物の匂いになっている。



曖昧だった気持ちが熟成するために十分な時間が流れて過ぎた。


そろそろ心を決めてもいいだろうか。


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