京都チョコレート協奏曲


台風みたいな女の子が現れたのは、本当にいきなりだった。



見舞い代わりのメッセージや通話が入ったときだけ空元気で、あとは無気力に過ごすおれの面会謝絶の病室に、見も知らぬ彼女は押し掛けてきた。



「男のくせに、もっとシャキッとしたらどうなん? 毎日めそめそして、食事も好き嫌いして残してばっかりやって、うちの父も看護師さんたちも困ってはるわ。肺結核やったら、今すぐ死ぬような重病人ちゃうやん」



制服姿の10代半ばの女の子だった。


目尻がツンと上がった丸い大きな目は力があって、端的に言うと、すごくかわいい顔をした子だ。



「あの、きみ、何? おれのとこ、基本的に入室禁止のはずなんだけど」



「人に向かって『何』って訊き方、失礼なんと違う? うちは花乃《はなの》っていいます。あなたの主治医、うちの父やねん。忘れ物を届けに来たら、困った大学生が入院してきたって言うて頭抱えとったから、どんな人なんか気になってん」



顔はかわいいけど、言ってることには容赦がない。


京女《きょうおんな》って、もっと婉曲な表現を好むものじゃないっけ?


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