京都チョコレート協奏曲
時間にして、ほんの数秒間。
でも、おれの卑屈な言葉が吹っ飛ばされるには十分な時間だった。
「きみ、度胸あるね。いろんな意味で」
毒気を抜かれた。
花乃ちゃんは頬を染めて、怒った顔で、挑戦状を叩き付けるように言い放った。
「うちは病気にはならへんし。また監視に来るわ。好き嫌いせんと、ごはんをちゃんと食べて、看護師さんの指示には従っとってください。うちのファーストキス奪った責任や」
「奪われたのはむしろおれのほうだけど。ファーストじゃないけど」
「何か言うた?」
「いいえ、何も」
「とにかく、また来るし。さよならっ」
花乃ちゃんは踵《きびす》を返して、病室から走り出た。
面倒くさいことになったなあ、と思った。
でも、ワクワクした。
それがカテキョの教え子、花乃ちゃんとの出会いだ。