京都チョコレート協奏曲
「今日のところは、そろそろ終わりでいいかな? 宿題とか予習とか、急ぎで片付けないといけないものがあれば見るけど」
「あ、そうや、英語の訳がわからへんところがあってん。見てもらってもええ?」
「了解。見せて」
花乃ちゃんが机から離れて通学カバンをガサゴソやる隙に、おれは数学のノートに、薄くて小さな紙包みを挟んだ。
紙包みの端を、しおりのようにノートから少し出しておく。
今日はバレンタインだから――そんな言い訳を何度も聞かされた1日だ。
女の子だけの特権ってのは、ちょっとずるいんじゃない? なんて思うから、やっぱり今日、こっそり仕掛けることにする。
結局、言い訳が必要なんだよな。
おれ、自信満々に見えるらしいけどさ。
花乃ちゃんが戻ってきて、おれは課題である英語の長文を斜め読みして、下線が引かれた箇所の和訳をする。
うちの大学の二次試験も去年の今ごろ受けた大学院入試も、英語の問題は同じ形式だった。