エリート外科医の一途な求愛
交わせない約束
大学が夏休みに入ってすぐ、梅雨が明けた。
連日雲一つない青空が広がり、学生の姿が少ないキャンパスにギラギラの太陽光が容赦なく注がれ、どこを歩いても蜃気楼が立ち込めている。


七月最後の週末、医局で『暑気払い』と称して飲み会が行われた。
忘年会や送別会でも、普段から医局員全員が揃うことはない。
今夜の飲み会も、教授の予定を最優先した結果、各務先生の出張中に当たってしまった。


各務先生は、大学の講義が入っていた時間に合わせて、毎週二泊三日程度出張するようになった。
医局を不在にするわけにはいかないと言ってはいたけど、実際、論文制作に割く時間が無くなり、彼が医局に顔を出すことも少なくなった。
おかげで私も、この一週間、まともに顔を見ていない。


飲み会に遅れてやって来た研修医たちも、『各務先生来れないんだ~』と、口々に残念そうに声を上げる。
医局秘書の私に彼の予定を聞いてくる人もいるけど、私は返事をしながらぎこちなく笑うだけ。


「最近先生、出張多いよね? なんか、今月の学会も木山先生が代わるって聞いたし、それが原因?」


医局員にはもちろん、各務先生の学会欠席の話は伝わっている。
けれどその真相については結構錯綜していて、卵が先か鶏が先か曖昧になっているのが現状だ。
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