暗黒王子と危ない夜
「……、」
三成くんの手が、戸惑ったように肩から離れたかと思えば、今度は背中に優しく腕を回される。
「お前、泣いてんの」
「……泣いてない」
泣いてない、まだ、雫が地面に落ちてないから……大丈夫。
ぎゅ、と唇を噛んだ。
泣くなんていやだった。
自分の気持ちを認めてしまうみたいで。
きっとその瞬間、自分がひどく惨めに思えてしまうから。
「七瀬のこと好きなのか」
外にはあたしたち以外、誰もいない。
抱きしめてくれている三成くんの温かさに、心が少し落ち着いた。
「……わかんない。でも、エナさんと一緒にいる本多くん見たら、なんか…辛くなって」
素直な気持ちがこぼれ落ちる。
「……そうか」
余計なことは何も言わず、ぎこちない手つきで背中をさすってくれた。
「しんどい思いさせたな。エナのことは黙ってた俺も悪かった」