暗黒王子と危ない夜
中はひんやりと冷たい空気が流れていた。
暗い廊下と、他に人がいるとは思えない静けさが不気味で身震いする。
中島くんはまっすぐに前を見据えている。
後ろからも見張り役が二人、一定の距離を保ってついてきていた。
背中に刺さるほどの視線を感じる。
何か不審な動きを一瞬でも見せれば、すぐにでも抑えつけられて痛い目に遭わされるんだろう。
抵抗する意思はない。
今は大人しく従うことが賢明だと分かっている。
それでもこの場から逃れたいという気持ちは、ずっと心の奥の方で渦巻いていて……。
「そうだ、スマホ」
外部との連絡が取れさえすれば、と思った直後。
振り向いた中島くんが「寄越せ」と言うように手を伸ばしてきた。
制服の右ポケット。冷えきった指先で掴み、差し出せば、すぐさま乱暴に奪い取られる。
「これは俺が預っておくから」
片手でひらひらと、見せつけるようにして。
不敵な笑みを浮かべると、足を翻し先に進み始める。
「あ。ロックの解除番号って牧野に教えたやつと変わってたりする?」
聞かれた途端、しまったと思う。
迂闊だった。
カラオケ店で一度同じ目に遭っているのに、本多くんに助けられて安心しきっていた。
「どうなの?」
「っ、……変わってない、です」
「あはは、敬語かよ」