暗黒王子と危ない夜


まじまじと見つめられて、おにぎりの袋を開ける手が止まってしまう。



「最初は、“こんなにカワイーのに気取ってないあたし”を気取ってるのかと思ってた。でも違うね、俺はそーいう女の演技見抜くの上手いんだよ」

「……えっと、ありがとう……?」



一応褒められてるんだと認識して頭を下げた。


変な状況だと思う。

人質として連れてこられて、監禁されて。
その見張り役とご飯を食べながらこんな会話をするなんて。


中島くんの涙も、あの手紙も、ひょっとしたら夢だったんじゃないか…と思い始めたとき。


中島くんのスマホが音を鳴らした。

あたしを横目で一度だけ見ると、立ち上がり距離を置く。



「──はい。……そうですか」


淡々と相づちを打ちながらも、表情は固い。

やがて通話を終えた中島くんは、穏やかさなんて少しも残していなかった。



「青藍がやられたって」


抑揚なくそう言うと、そのまま扉の方へ向かっていく。


「予定より少し早い……けど、黒蘭の方にもかなり痛手が出てるって話だ。相当荒れるかもな。……腹括っときな」


静かな声。

扉を開いた彼の背中が、ついて来いと言っている。



「どこに、行くの」

「……本多のとこ」


その瞳は、あたしのことなんて映していない。



「黒蘭の本部……ってこと? これから何が始まるの?」

「まずはお話し合いって体で入るだろうけど、そんな段階なんて、あってないようなもん」



睨むように見据えていた。



「言葉で分かり合えない奴らは、戦うしかないんだよ」


──光の見えない、真っ黒な世界を。
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