イジワル上司に甘く捕獲されました
好きな人
「じゃあね、美羽ちゃん。
戸締まりはちゃんとしてね?
何かあったら電話してね?」

「う、うん。
大丈夫だから、真央。
私より真央の方が心配だし。
忘れ物はない?
体調には気をつけてよ?」

今日は真央の出発日。

朝からバタバタ準備をして、玄関で靴を履き終えた真央。

新千歳空港までは翔くんが送ってくれることになっていて、大きなキャリーバッグを車に積み込んでくれていた。

今日は平日で、私は出勤日。

半休をとって見送りに行くつもりだったけれど、翔くんがいるからいいと真央に断られて。

私は真央を見送った後、出勤する予定だ。

「とりあえず年末には帰国するから。
……寂しくなったり、不安になったら瀬尾さんに頼るのよ?」

茶目っ気たっぷりにウィンクする真央。

「し、しませんっ。
瀬尾さんはただの上司です!
甘えてばかりはいられないのっ」

「ふーん、ただの上司?」

ニヤニヤしながら真央が言う。

「もうっ、早く行きなさい。
翔くんが待ってるんでしょ!」

「お姉ちゃん、顔が赤いよ?
じゃあ、行ってくるね」

ギュッと私を細い腕で抱きしめてくれて、真央は元気にエレベーターに乗り込んだ。

私は不覚にも涙が出そうになり。

ギュッと唇を噛んでこらえた。

私よりきっと真央の方が不安だろうし大変な筈。

普段真央が使わない、お姉ちゃんなんて呼び方をされたから感傷的になってしまっただけ。

寂しい、なんて泣いていてはいけない、しっかりしなくては。

自分に言い聞かせて。

顔が赤い理由は考えないようにする。

……ここ数日は顔を見ていない真上の住人。

無意識に顔をあげて上を見てしまう。

会うと緊張するし、会いたいのかもハッキリとわからない。

だけど。

普通ならば職場以外で会えないことは当たり前なのに。

会えることを普通にとらえてしまう自分がいて。

マンションに戻ると無意識に彼の存在を意識してしまう。

郵便物を取りに行く時。

ゴミ出しの時。

外出の時。

……どうしてなんだろう。

……気付きそうで気付きたくないような自分がいて。

私はフゥッと長い溜め息を吐いて。

エレベーターの表示が一階になったことを見届けて、身支度をするために部屋に戻った。

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