黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
第二章 王家の血族

7.

水の都ルハルドでは、美しい石畳の街並みに網目状の運河が走っている。

国境の山脈から流れる川の下流に栄え、北東へ進めば海へ出る。
中央地区だけでも千の橋が架けられ、都内を移動するには馬車より小舟が主流だ。

中心街をまっすぐに縦貫する目抜き通りにはたくさんの人が行き交い、近衛兵のいる大きな跳ね橋を越えると、貴族たちの立派な邸宅が立ち並んでいた。
平時には通行証の必要な跳ね橋が下ろされ、外城壁の中にまで見物客が押し寄せている。

小舟が目抜き通りと交差する水路へ入ると、人垣の向こうに黒い旗を掲げた騎士たちの行進が見えた。

キール伯爵家の黒旗騎士団が凱旋したのだ。
オスカーが栗毛の馬上から民衆に手を振っている。

またひとつ、低い橋の下を通過した。

フィリーは亜麻色の髪が風に煽られないよう、目深にしたフードを片手で押さえて俯く。
オールが水を掻く音が、橋の下で微かにこだました。

目の前にはギルバートがいる。
ギルバートは黒旗騎士団の凱旋より王女の監視を優先した。

パレードに肝心のキール伯爵の姿がないことは、重大なニュースとなって今まさに王都中に拡がっているはずだが、黒旗騎士団が連れ帰った娘の身元を詮索されるよりはましということだろう。

それでフィリーは、王都に着くなりギルバートに手を引かれ、小さな舟に乗り込んだ。

ふたりとも地味なねずみ色の外套で全身をすっぽりと覆い、凱旋の喧騒の影に隠れ、目立たないように運河を進む。
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