副社長と愛され同居はじめます

言いたいことは、山ほど


錆びた鉄の階段を、転がり落ちる。
それにしては、痛みが少ないような気がした。


どどど、と確かに感じた衝撃。
だけど、しっかりと何かに抱えられている。


そう気付いた時、同時に唸るような声がした。



「柊っ?!」

「……っ、て、いてぇ」



コンクリートの上に落ちたのだ、しかも私を抱えて。
痛くないわけがない。



「柊、柊っ……ごめん、なんで……」



慌てて彼の上から降りて、起き上がろうとする彼の上半身を支えた。


怪我がないか視線が身体中を探す。
頬に強く擦りむいたあとがあり、彼が痛そうに後頭部をさすっていた。



「見せて!」



と、その手をどける。
血が滲んでいる様子はないけど、強くぶつけてないだろうか。



「副社長!」


車の運転席から、芹沢さんが飛び出してくる。
それを、大丈夫だとでも伝えるように、芹沢さんを手で制した。



「小春、怪我は」

「えっ?」

「怪我ないか。痛くないか」



痛かったのは絶対、下敷きになった彼の方なのに。
私の肩を掴み、必死に窺う彼に、私はぼろぼろと泣いた。



「ない、ない。痛くない」



ぎゅっと強く抱き寄せられる。
泣きながら、その背中に手を回ししがみついた。


どうしてこの人を諦められるなんて思ったのだろう。
こんなにも、好きなのに。


離れたくないのに。
一度は諦めた恋だけれど、もう一度手を差しのべられてしまったら。


もう二度と、そんな決断は出来ないと思った。



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