副社長と愛され同居はじめます
「別に私だけの問題じゃなくてですね、誰に作ってもらった時だって同じですよ」

「わかってるよ」



顔が近づいて、互い違いに唇が重なった。


わかってるのか?
本当にわかってるんだろうか。


成瀬さんとこうしてプライベートで接してまだ僅かな時間が過ぎただけだが、早々に浮かんで来た不安要素。


つまりこれが、育った環境の違いというやつだろうか。
金持ちってみんなこういう考え方なのかしら。


でも荒川で育った父は、全くそういうのを匂わせない、寧ろどっぷり庶民な人だったけど。
別にあそこまで庶民になれとは言わないが、せめて普通一般の気遣いくらいは身に着けてもらわなければ。


食事のこと、しかり。
あと、なんでも自分の思う通りに進めていけると本気で思ってそうな辺りとか。


全部金で解決していきそうな勢いだもんな、と思い至った時、ちょっとばかり背中を冷たいものが走る。


いやあ、まさか。
まさかね?


ないない、流石にそこまで強引なことしないでしょ。
そう思い直したのも虚しく、引越し業者がアパートの私の荷物をごっそりここに運んできたのは、翌日日曜のことだった。


再び私がぶちキレたのは言うまでもない。

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