ムシ女
薬品
友人2人が大きなゴミ袋を2つずつ手に持って科学室から出て行くのを見送った。


放課後の科学室は薄暗くてどこか不気味。


1人残されたあたしは教室の後ろにある掃除道具入れにホウキを片付けて、代わりに雑巾を手に取った。


科学室にある雑巾は教室で使っている雑巾とは違う匂いがする。


実験中に薬品をこぼしたりなんかするから、甘いような苦いような、妙な香りが染みついてとれなくなってしまっていた。


あたしはこの雑巾の匂いが苦手だった。


できるだけ早く拭き掃除を終わらせるため、あたしは廊下にある手洗い所で雑巾を濡らして適当に絞り、一番教卓に近いテーブルからふきはじめた。


科学室の黒いテーブルは計9台。


それぞれ6人ずつの班になって授業を受ける。


6つ目のテーブルをふき終えて、あたしは一旦廊下へ出てもう一度雑巾を濡らした。


汚れを落とし、今度はちゃんとしぼった。


このテーブルふきが終れば掃除は終了だ。


早く帰ってテレビでも見よう。


グラウンドからは野球部やサッカー部の声が聞こえて来る。


6月の蒸し暑さなんて感じさせないくらい活気のある声に、あたしは自然とほほ笑んでいた。


できるだけ動きたくないあたしとは正反対だ。


手洗い所から見えるグラウンドに少しだけ視線をやって、そして教室へと戻った。


「早く帰ろ」


そう呟き、残り台のテーブルにとりかかった。


その時だった。
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