君にまっすぐ
オルディさんはお友達
孝俊とあかりは友達になってから約3ヶ月、1〜2週間に1回ほどの割合でドライブと食事を繰り返した。
端から見ると、ただのデートにしか思えないがあくまで2人にとっては友達関係だ。
食事もあかりに合わせて1000〜2000円で済むような店にしか行っていない。
もちろんお酒はなしだ。
だいたい話はあかりの好きな車の話が多かった。
孝俊もそれらの車を所持しているだけあって、思い入れもあるし知識もある。
オルディやアヴァンのカスタマイズへのこだわりなどの話は特に盛り上がった。
段々と打ち解け、お互いのことについても話す機会は増えてきていた。




「オルディが1番好きだって言ってたけど、2番目に好きなのは何?やっぱりアヴァン?」

「アヴァン様も素敵なんですけど、2番目に好きなのは…」

「ははは。アヴァン様って。」

アヴァンを様付けで呼ぶあかりに思わず笑いがこみ上げる。
あかりは照れたように言葉を返す。

「あ、やだ。つい言葉に出ちゃって。」

「そういえば、あかり、オルディのこともさん付けで呼んだことあったよね?オルディはさんでアヴァンは様なの?」

おかしそうに笑いながら問いかける孝俊にあかりは顔を真っ赤にし、頬を若干膨らませている。

「もう。そんなに笑わなくていいじゃないですか。」

「ごめん、ごめん。いや、でも相当面白い。どういう違いがあるの?」

「アルディさんは私にとっては好きなアイドルとかイケメン俳優とかそういう位置付けなんです。憧れであり日々の癒やしというか。疑似恋愛の対象というべきでしょうか。アヴァン様はハリウッド女優でとても遠い存在だけどその圧倒的なオーラにひれ伏さずにはいられない、真似したくても真似できない、でも憧れてしまう、そんな存在です。女王様というか。」

「なるほど、オルディは男性でアヴァンは女性なんだね。色も黒と赤だし。」

「そうなんです!カタログや雑誌で違う配色も見たことはあるんですけど、私はオルディには黒、アヴァンは赤がピッタリだと思ってたんです。それを孝俊さんがまさに乗っていらしたので感激しましたよ!」

「はは、車のことになると本当に楽しそうだよね。」

「はい、めちゃくちゃ楽しいです!」

「ごめん、話がそれちゃった。で、2番は?」

「2番は軽トラです!」

「は?」

「軽トラです!」

「軽トラって、あの…後ろが荷台になってるトラックの小さいやつ、だよね?」

「そうですよ?」

「はっ、ははは、あははははははは…。」

孝俊はツボに入ったのか笑い続けている。
あかりはバカにされたようで少々面白くない。
顔を赤くし頬をふくらませて孝俊を軽く睨んでいる。

「孝俊さん、また私のことバカだとでも思ってるんでしょう?私真剣なんですけど!」

「ははっ、いや、ごめん。真剣なのはもちろんわかってるよ。でも予想外で、つい。」

孝俊は何とか笑うのをやめようとするが、ツボに入ってしまったがゆえになかなか治まらない。

「いいじゃないですか、軽トラ。素朴で実直で。見てるだけで田舎を思い出して心が穏やかになるんです。」

「田舎って?」

「うちの母方の祖父母が熊本の田舎に住んでて、農業してるんです。よく田植えの季節になると家族みんなで手伝いに行ってたんです。本当はダメなんでしょうけど、家から近くの田んぼに向かうのに子供達みんなで荷台に乗ったりなんかして。棚田を背景にした軽トラは最強になごみますよ。」

「へぇ、都内にいるとなかなか軽トラなんて見る機会ないけど、あかりがそこまでいうならいつかその景色、見てみたいな。」

「いつか機会があるといいですね!その時は案内しますよー。」

「あぁ、ありがとう。」

「軽トラって私にとって自分自身をさらけ出せる存在なんですよ。だから、私の好きなタイプも軽トラなんです。」

「え?好きなタイプが軽トラ?」

あかりの言葉に孝俊は拍子抜けの顔だ。

「そうです。自分自身をさらけ出せるリラックスできる人がいいんです。見た目ではなく、実直さや誠実さが私にとっては大事なんです。」

「へぇ。」

「孝俊さんはオルディみたいな存在ですよね。かっこ良くて仕事もできるみんなの憧れって感じです。」

あかりはニコニコと裏のない顔で一人納得している様子だ。
一方の孝俊は複雑顔だ。
あかりのことは好きではないはずなのに、恋愛対象外と言われたようで胸がズキッと痛む感じがした。
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