次期社長はウブな秘書を独占したくてたまらない
微かな気配
「今日は来てくれて本当にありがとう。文香ちゃん、またご飯でも一緒に行こうね」

私達を見送ってくれた夏希さんはにっこりと笑って手を振ると、画廊の中に戻って行った。遅い時間だけど、人気作家の凱旋個展にまだ沢山の人が訪れているのだ。
そのお相手をするのも作家の仕事なのよ、と悪戯っ子の笑みを浮かべていた先程の夏希さんを言葉を思い出す。

「作家さんも大変なんだね」

「まあ、そうだな。作品をつくるだけじゃなくて、作品を売るための活動もしなければならないしな」

それで生計を立てているのだから、評価されるだけでなく売れる事を考えなければならない。それには顧客やご贔屓さんを作って知名度だって上げた方が良いはずだ。自分の作りたいものを作れるようになるためにも地道な営業活動は欠かせない。
自分には詳しい事は分からないが、芸術家だと胸を張れるまでには大変な道のりがあるのは分かった。

「それより、夕飯はどうする?希望がないなら俺の行きたい店にするぞ」

「俺の行きたい店って‥‥このまま帰るって希望は聞いてもらえないの?」
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