次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
7、君の幸せを願う
「ふふっ。悪くはない読みですよ。さすがフレッド殿下です」
不気味な笑い声に振り返ってみれば、いつの間にそこにいたのだろう。鉄格子の向こうに、ナイードの青白い顔が浮かんでいた。黒いマントで全身を覆っているせいで、本当に首から上だけが浮かんでいるように見えて、プリシラは息が止まるかと思うほど驚いた。
カチャリと南京錠が外れる音がして、ナイードが部屋に入ってくる。同時に、フレッドが自分の背にプリシラを隠した。

「心配なさらずとも、私はそんな女には欠片も興味はないですよ。フレッド殿下、あなたの方がずっと魅力的です」
そう言って、フレッドにじっとりとした視線を送った。これには、さすがのフレッドも少したじろいだ。
「う〜ん。僕は博愛主義ではあるけれど……自分を軟禁するような相手は勘弁願いたいな」
「部屋は清潔で、光も風も入る。寝具も与えたし、食事も三回。十分、高待遇にしたつもりですけどねぇ……そこの女だけなら、地下牢にぶちこんで終わりですよ」
「それは感謝する。ありがとう」
フレッドはひきつった笑みを返す。
「……私、あなたに嫌われるようなことなにかしたかしら?」
プリシラは納得いかない顔だ。プリシラの方もナイードは苦手だ。だから好かれたいとは思わない。けれど、毛嫌いされる理由も思いつかない。

ナイードは深いため息を落とすと、話にならないとでも言いたげに首を振った。
「女は嫌いなんですよ。今回もルワンナ王妃なんかと手を組んだのが、運の尽きでした。簡単に捕まったあげく、あることないことペラペラ喋るんだから困ったものです」
ナイードの計画は、成就まであともう一歩のところまできていた。ザワン公爵と密会する手筈も整っていたのだ。フレッド暗殺未遂容疑をロベルト公爵とディルの共犯に見せかけ、二人を失脚させる。その後、ザワン公爵に密かに助け出されたフレッドがもう一度王太子に返り咲く。ナイードはザワン公爵から多額の報酬を受け取り、国外に逃亡。


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