再会からそれは始まった。
「ここに、俺の車停めてあるから、誰かに取りに行かせてくれるか?」

次の日の朝、秘書の松山にプリントアウトした地図と車の鍵を渡す。

何か思うところはあるのかもしれないが、松山は素直に受け取り
「承知しました。」
という。

あの後、タクシーをつかまえてあのビルに戻る間、花の唇の感触や変わらないあの真っ直ぐなきれいな目を思い出しながら考えていた。

昔のあのしょうもない自分にケリをつけたいのかもしれない。
片親の子。男ばっかりの家族。なにもかもに引け目があって、自信のない自分。
母親は、知らない土地での生活と子育てに苦労していたらしい。
俺が産まれてすぐ育児ノイローゼになり、実家に戻りそのままその田舎で別の男とデキてしまったらしい。
まあ、親父も自分の講義と研究、学会で忙しく、家庭を顧みない男だったから仕方がない。
でも、心の奥で自分が原因のような気がしてならなかった。そして、見捨てられたという思いもあった。

あの町の大学で教鞭を取っていた親父は、なにかと女から人気があった。
母親がいなくなったそのポジションに入り込みたい女がたくさんいて、俺たち四人兄弟に気に入られようと近づく女もいた。
俺が完璧に家事をこなすようになったのも、そんな女たちを牽制する目的でもあった。
ゴミの出し方がなってないだとかいつまでも洗濯物が干してあるだとか言って、いろいろと噂をして暇つぶしに楽しんでいる近所のオバさん達にも対抗する必要があった。
とにかく、そんなくだらない事からの俺の意地がベースにあった。

高校に入って、花と出会い、自分の中で整理がついていた気持ちに混乱をきたすようになった。
女はキライだ。
花だって別に。
いや、そんななまぬるいもんじゃない。
全部奪いたい何もかも。その幸せそうな笑顔。誰からも愛される素質。
例えば花を残して全員花の家族が死んでしまえばいいい。悲しみと絶望にくれた花を俺がもらう。そんな妄想さえしていた。

でも、現実は話す事もままならない。
このめちゃくちゃな思いは、あの時そうやって深い闇に葬るしか方法がなかったんだ。

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