冷徹部長の愛情表現は甘すぎなんです!
1.甘い夜と、信じられない再会
「あーあ、もったいない!」

土曜日の夜、賑わう居酒屋のテーブル席で、目の前にいる大学時代からの友人、夏穂子《かほこ》がわたしの代わりに嘆いていた。

「紘奈《ひろな》が働いていた会社、結構待遇いいところだったよね?」

ジョッキに入ったビールを流し込むように飲んだあと、わたしは頷く。待遇の良さには満足していたのに……と、悔やんでいることを口にだして言ってしまったら終わりなので、ぐっと我慢した。

「残業もほとんどない、給料も良い、なのに逆ギレして辞めちゃうなんて本当にもったいないなぁ。下っ端は怒られるものだしね。あっ、ということは今、紘奈って無職なんだね」

アハハ、と明るい調子で笑って枝豆を撮む夏穂子を一瞬じろりと見るけど、セミロングの黒髪にぱっちりとした丸い二重の可愛らしい彼女に悪意はないだろうし、夏穂子の言葉はわたし自身も思っていることなので、「うん……」と返事をしてひたすらお酒を飲むしかない。

わたし、嶋本《しまもと》 紘奈は、大卒で入社して二年働いた大手の通信販売会社を先月退職した。
働いていたときは、暗めのブラウンのミディアムヘアでスーツを着て仕事をしていたが、それはもう過去。

正直、自分では笑い事にできそうもなかったから、こうして友達に笑ってもらったほうがいいのだろう。冷静に説教をされるより、軽い感じで笑ってもらえるほうが楽だし、溜まっている不満も話しやすい。
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