冷徹部長の愛情表現は甘すぎなんです!
「でもね、上司は毎回『間違っている』ってミスを指摘するけど、やり方も答えも教えてくれないし、こっちが聞いたら『そんなこともわからないのか』とか言うし! だからその日怒られた後、嫌な感じって顔で睨んだら『嫌なら辞めろ』って言うからそのまま……」

ずっとたえていたけれど、そのとき我慢の限界を感じたわたしは、勢いのまま会社を辞めてしまった。

「でもさ、どこか新しい職場を探してからにすればよかったのに。“無職”はきついよね」

「そうなんだよね……」

なにも考えずに行動してしまったから、再就職先はまだ見つかっていない。一年前に引っ越した駅近で新築の1LDKのマンションは、給料がよかったから家賃が払えたけれど、このまま無職が続いたら払えなくなって、家無しになってしまう。

親はわたしが大手の企業に就職したことをとても喜んでいたから、辞めたなんて言いづらくて連絡していないので、すぐに頼ることはできない。住むところがなくて友達の家に転がり込むなんてことも、恥ずかしいから絶対にしたくないから、どうにかして仕事を探そうと思っているけれど、以前の職場の給料と比べてしまう自分がいる。

我慢をしてあのまま働いていればよかったのかな……。
大手企業へ通勤していた先月までの自分には、もう戻れない。
ビールを眺めてため息をついていると、夏穂子が「そういえば!」と、明るい声をだした。
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