頬の涙を拭いながら「思わせ振りな事って?」と高梨主任に顔を覗き込まれ、意を決して口を開く。


「高梨主任には、ずっと前から好きなヒトがいるんでしょ?」


だったら、私が期待しちゃうようなこと、しないでほしい。
諦められなくなるようなことは……。


「あぁ、目の前に居る」


静かに、穏やかな口調で呟いた高梨主任は、私の身体をフワリと抱き寄せた。


「俺の腕の中に居るよ」

「あ……の……」


えっと。
言われている意味が、理解できないんですけど。

と言うか、あなたは何を言っているのですか?
こんな状況の中で、冗談はやめてほしい。


「私が聞いているのは、さっき真美さんが話していた、名前も知らないヒトのことです」

「だから、それは芽里のことだ」


わた……し?


明らかにピンときていない私の顔を見た高梨主任は「覚えていないだろうけど。芽里がうちに入社する前、一度だけ二階のカフェで会ったことがあるんだ」と、青信号に変わり車を走らせながら。
ゆっくりとした口調で、高梨主任は教えてくれた。


当時。
まだ学生だった私は、わが社の入社試験である最終面接を受けに、オフィスビル「B.C. square TOKYO」を訪れていた。

めちゃくちゃな質疑応答を終え、あまりの出来の悪さに落ち込み。
重い足取りで専用エレベーターに乗り込み、エントランスに下り立った。



この作品のキーワード
オフィスラブ  胸キュン  ときめき  運命  独占欲  大人の恋  片思い  上司  再会