あまりさんののっぴきならない事情
 だが、海里はワインを構えたまま、
「警察に協力する義務はない」
と男に向かい、言い放っていた。

 ありますよ……。

 国民として。

「なにが事件だ。
 いきなり硬い話しやがって、わざわざ高いワイン買ってきて、いい雰囲気にしようと思ってきたのに」
と海里が愚痴ると、すみません、と男は素直に謝る。

 同性として、同情の余地がある、と思ったのかもしれない。

「あ、僕は、ハットリ ケイジと言います」
と男は名乗った。

「……下の名前は?」
と海里は問う。

「だから、啓司(けいじ)ですよっ」
と服部刑事は、刑事になってから、何度も語ったのだろう話を始める。

「でも、実は、この名前だから刑事になったんです。

 幼稚園のときから、ごっこ遊びのとき、大抵刑事役をやらされて。

 ケイドロでも、永遠に警察側です」

 それでなんとなく、と服部は言う。

「流されやすい奴だな。
 世の中に何人、ケイジって名前の奴が居ると思ってるんだ。

 そいつら全員、刑事になったのか。

 じゃあ、服部犯人とか服部服役囚とかいう名前だったら、犯罪者になってたのか?」

 服部半蔵とか、という海里に、
「……いや、服部半蔵はいいんじゃないですか?」
とあまりは言った。
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