イジワルな副社長に恋してる!
絢香は中学からの友人の、戸田 梨華と一緒に飲みに来た。
駅前にある、普通の居酒屋だ。
梨華は、大手不動産会社に勤める、キャリアウーマンで、現実主義者。
髪の毛は肩までのボブで、きっりとした美人だ。


席について、生ビールと、串カツ、ポテトにサラダ。
「梨華、あとは?」
「刺身の盛り合わせ、なんだろ?」
絢香は、店内を見回すと、黒板を指した。
「あそこ、えーと、まぐろと、たいと、ハマチと生エビだって。」
「じゃあ、それ。」
「あと、たこのから揚げ。」
注文を終え、先に来ていたビールを一気に流し込んだ。

「絢、何を荒れてるの?」
梨華は、少し笑いながら聞いた。
「なんか、ピアノの生徒に遊べる女だと思われてる。」
「は?生徒?若いの?」
「うーん、30ぐらいかな~?確か。」
「ふーん、そんな遊べる程、いい男なの?」
「まあ。たぶん。」
絢香はなんとなく、言葉を濁した。

「遊びじゃダメなの?損がない関係ならいいんじゃない?何してる人?」
リアリストらしい発言をする。
「会社の…副社長。」
「副社長でもピンキリじゃん。」
(- まあ、確かに。)

少し、間を開けて答えた。
「アーサーディレクションの副社長…。」
梨華は、目を見開き、
「はっ?!何が不満なの?あそこの社長と副社長、こないだ経済紙のインタビュー読んだけど、ルックスも、何もかも、いうことなさそうな感じだったけど。」
確かに、他から見たら、そうなんだろう。
「でも、性格悪いよ。」
絢香は静かに言った。
「まあ、あれだけの人なら、性格多少悪くても、仕方ないんじゃない。」
「でも、嫌なの。遊ばれるのは。」

梨華は呆れ顔で、
「じゃあ、そんなすごい人の本命になりたいんだ?」
絢香はそう聞かれると、なんて恐れ多い事を考えたんだろうと、少し恥ずかしくなった。

「…確かにそうだね。あたしが腹を立てる権利何にもないんだ。」
「腹を立てるって、何かあったの?」

「いきなりキス、された。」
「ラッキーじゃん。でもなんでそんな展開に?」
梨華は、表情を変えず、刺身を挟んだ箸を口に運びながら言った。
「ラッキーなの?!それに、そんな甘い展開じゃなく、嫌がらせみたいに、いきなりキスされた。」

「いきなりねぇ…。でも、あんな有名人とキスしたい女の子なんて、山ほどいるでしょ。気まぐれだって、なんだって、キスできたならあたしはラッキー。」

絢香も、刺身を頬張り、ビールを流し込んだ。
「あたしとは、住む世界が違う人んだろうな。」

「そうだよ。早く現実をみな。そんな事を考えてるなら、他の普通の男でも紹介しようか?遊ばれたくないなら、別の男だよ。」
超現実な発言で、何か目が覚めた気がした。

(- 危なかった。彼は生徒、彼は生徒。)
自分に、言い聞かせた。
< 44 / 73 >

この作品をシェア

pagetop