ビターチョコをかじったら
本当は
「あのさ。」
「ふぁい?」

 思い切り間抜けな声が出てしまったのは、お好み焼きを口いっぱいに頬張っていたからだった。

「お前さ、いつになったらキスさせてくれんの?」
「ふぁ!?げほ…。」

 変な声が出たのは、お好み焼きが喉に詰まったからだった。突然何を言いだすのか、この男は。…そんなの、いつものことだった。

「…う…あ、相島さん…いきなり何を…。」
「いや、一体いつなんだろーなっては常に思ってたから。んで、唇、目に入ったし。」
「……。」

 なんとかごくんと飲み込んで、相島の鋭い目線に自分の目を合わせた。射貫くような目ももちろん嫌いではないけれど、逃がしてはくれないことが明白すぎて今の紗弥には少し苦しい。
 あまりアウトドア派ではない紗弥と相島は、割と週末は家デートを楽しんでいた。デートと呼べるような甘い雰囲気はもっぱらなく、一緒にご飯を作って食べたり、お酒を飲んだり、映画を観たりする程度の家デートだ。

「…なぁ。」
「はい…。」
「誤解してほしくねーから先に言うけど、別に身体目的とかそういうんじゃねーし、つーかそうだとしたらとっくにお前なんか切ってんだけど。」
「…そ、そうだよ、ね。」

 キスどころか、付き合って2ヶ月で手を繋いだことすらない。ピュアにもほどがある。(でも、仕事は有り得ないくらい忙しかったのも事実)

「触りてーなって思ってんの、俺だけかよ。」
「え…。」

 あまりにも素直に落ちてきた相島の言葉に、紗弥は目を丸くした。およそ相島らしくない発言だ。こんなことを言ったら残業を手伝ってくれなくなるから言わないけれど、…ちょっと可愛い。

「…はぁ、まじかよ。俺だけか。」

 ちょっとだけ落ちた肩。紗弥は相島の隣にすっと身体を寄せた。

「…なんだよ。」
「へへ。何となく。」
「今更寄ってくんのかよ。」
「…恥ずかしかったの、…本当は。」
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