ただ、そばにいて。

2)ひとりの夜

 予定よりも早い時間だったので、最終前に地下鉄に乗ることができた。
 階段で地下におりると、ちょうど南方面に向かう車輛が到着するところだった。

 車内は仕事帰りのサラリーマンや学生らしき団体で混んでいた。
 ヘッドフォンで外界を遮断する若者。
 スマートフォンの画面を必死で追いかけるOL。

 ロングシートの端では、酔っぱらいがブツブツとひとりごとを言いながらポールを抱きしめている。臭い息が、こっちまで漂ってくるようだ。
 酔っぱらいの周りは、まるでバリアでも張ってあるかのように空間ができている。

 他人と関わりを持ちたくない人間たちで作られた、孤独で無機質なコミュニティ。
 そのなかに紛れていると、たまらなくほっとした。
 ひとりでいることを責められず、普通でいられる。
< 9 / 51 >

この作品をシェア

pagetop