私たちは、あの後すぐに店を出るとタクシーをつかまえた。


タクシーの中で彼につながれた左手の感覚は途中からなくなった。


向かった先は、ホテルではなく彼の住むマンションだった。


見上げたそのマンションの天辺は星の見えない夜空に吸い込まれているように見えた。


ホテルのようなエントランスを抜けて出迎えるコンシェルジュの声を聞きながら、彼に手を引かれ直ぐに開いたエレベーターに乗り込んだ。


彼がカードを差し込み点滅した37のボタンを押すと、静かに上昇を始めた。


そして、隣に立つ彼の気配がわずかに動いた次の瞬間には、私の背は後ろの壁に当たっていた。


すぐ近くで私を見下ろす瞳と目が合ったのは一瞬で、後はもう何も見えなくなった。


彼の唇が私の唇に重なり、啄ばむような優しいキスが繰り返し何度も落とされる。


それに必死に応えるうちに温かいものが差し込まれ濃厚なキスに変わっていく。


何も考えられなかった。


途中で止まることなく上がり続ける密室の中には、私たちの水音だけが響き渡っていた。