さすが都心にそびえる高級ホテルとあってすれ違う宿泊客は皆、上品で高級そうな服に身を包んだ人ばかり。


前を歩くタケの背中を見て、そんな中でも違和感なく堂々と歩く姿に彼も父親の跡を継いだ社長なんだと改めて思った。


その時、スッ…とすれ違った女性の綺麗で長い黒髪だけが視界をかすめたその瞬間、何かに引き寄せられるように私の足が止まった。


その女性の顔をはっきりと見たわけではなかった。


なぜかは分からない…分からないけど……


ほとんど顔も見ていないその女性に対して、私の心は何かを察知したように激しい動悸と得体の知れない不安に包まれ始めた。


そして導かれるように通り過ぎたばかりのすぐ後ろを振り返ったその瞬間、私は目にしたその女性に言葉を失ったーーー。


後ろ姿しか見えないと思ったはずのその女性も私のすぐ背後で立ち止まり、同じようにこちらを振り返っていたから…。


そして、お互いを見つめる私たちの間に流れる時間だけが一瞬…本当に止まった、と思った。

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