最後の恋
「その婚約者は私…だったの。だけど、もう別れた昔の恋人と…しかも自分を好きじゃない相手と結婚できる?!だから、その話は両家で話し合って随分前に白紙に戻った話なの。それに、その時礼央が言ってた。結婚相手は自分で決めますって。」


だったら、婚約者なんていないと信じてもいいのだろうか。


「本当に?」

「本当だよ。これが真実だから。」

「私…一ノ瀬君と再会して…もう一度彼を好きになったの。婚約者がいるって聞いても今度は止められなかった。だけど、始まりと共に決めていたのは、その時が来たらちゃんと自分から終わらせるって事だった。だから、私…」

「何も言わずに別れようって言ったんだね。」


その言葉に頷き


「私…一ノ瀬くんに酷いことして傷つけた。」

「だとしても、そんな噂に気づかなくて杏奈を不安にさせた礼央も悪い。今からでも、全然遅くないよ。お互いに気持ちをちゃんと伝え合っておいでよ。」


そう言った紫乃の笑顔は、今まで見た笑顔の中で一番綺麗で優しい笑顔をしていた。
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