最後の恋
目的の階に着くと、ゆっくりとそのドアが開かれていく。


開いた扉の向こう側に、誰かの足が見えた。


そう思った時には、その誰かの腕がまっすぐ伸びてきて腕を掴まれるように引かれた。


「…杏奈、ずっと不安にさせててごめん。」


苦しそうな彼の声が耳元から流れ込んできて胸が苦しくなった。


「私もごめんなさい…。本当はずっと会いたかった。」


彼にあまりにも強く抱きしめられていて、彼の肩口に顔を埋めたまま彼に謝罪の言葉を向けた。


彼が私の両肩に手を乗せ、ゆっくりと身体を離した。


顔を見上げると、すぐ真上から見ている彼と目が合った。


そして、ゆっくりとその顔がもう一度近づいてきて…唇が重なった。


それは触れるだけの優しいキスだったけど…私を許してくれているようなそんなキスに心が震えた。


彼は私の手を引きゆっくりと歩き始めた。


私の背後で、ドアの閉まる音が静かに聞こえた。
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