王子様はパートタイム使い魔

2.気に入らない



 初めて見る顔だが、ツヴァイは反射的に嫌いだと思った。
 愛想笑いでご機嫌取りをしてくる貴族のおやじどもなら何人も知っている。やってることは同じなのに、こんなに嫌悪感を覚えたのは初めてだ。耳を後ろに倒して前傾姿勢になり、ラルフを睨みながら低くうなる。ラルフは驚いたようにのけぞりながら、顔は笑っていた。

「あれ? 嫌われちゃったかな」

 その小馬鹿にしたような様子が益々癇に障ってツヴァイはさらにうなった。それを見てリディが慌てて駆け寄り、ツヴァイを抱き上げる。

「ごめんなさい、アーレンスさん。この子、知らない人にぶつかりそうになって驚いちゃったみたいで」
「違う! こいつの小馬鹿にした態度が気に入らないだけだ!」
「こら」

 リディに額をぎゅっと押さえられ、ツヴァイはとりあえずおとなしくする。リディはツヴァイを床に下ろして背負った袋を外し、中に入っていた通信符の束をラルフに差し出した。

「アーレンスさん、これ。いつもお届けしている通信符です」
「あぁ、ありがとう」

 ラルフは通信符を受け取って代金をリディの手のひらに乗せる。そしてそのままリディの手を両手で包んだ。

「心配したんだよ。今日はまだ配達がないって聞いたから、君が病気で寝込んでるんじゃないかって、居ても立ってもいられず様子を見に来てしまったんだ」
「ご心配をおかけして申し訳ありません。ちょっと急ぎの配達があったものですから」

 笑顔をひきつらせながらリディが手を離そうと引いているが、ラルフはしっかり握って離そうとしない。
 明らかにリディは困っているように見える。ツヴァイもなんだかムカついてきた。
 フラフラと揺れる上着の裾にじゃれつくフリをして、ツヴァイはラルフの足に飛びかかり爪を立てた。

「うわっ、いたっ!」

 驚いてリディから手を離したラルフが、振り返ってツヴァイを見る。ツヴァイは何食わぬ顔でラルフの上着の裾を前足でチョイチョイとつついて見せた。リディが慌ててツヴァイを抱き上げる。

「ごめんなさい、アーレンスさん。この子まだ若いから、とにかく動くものに反応しちゃって。おケガはありませんか?」
「たぶん、大したことないよ。猫ってそういうもんだよね」

 苦笑しながら伸ばされたラルフの手を、ツヴァイはすかさず前足ではたいた。こんな奴に触られたくない。

< 36 / 58 >

この作品をシェア

pagetop