すると先生は、自分の左の薬指にはめられている、私のよりもワンサイズ大きい指輪も抜き取った。

「いいか、見てろよ」
「?」

 先生が、ふたつの指輪をゆっくりと重ね合わせる。
 するとその瞬間、浮かび上がってきたのは、大きなハートの形だった。


 この指輪を見せてもらったとき、なんでこんな流線形の模様が描かれているんだろうと不思議に思った。
 美術の先生だから、なにかこだわりがあるのかな、程度にしか思っていなかった。

 けれど、これはふたつ合わせたときに、ハートの絵柄が浮かび上がるものだったのだ。

「俺が作ったんだ。おまえが見たっていう女とは、確かに昔付き合っていた。でも今は何とも思っちゃいない。この指輪を作るために、あいつの工房を借りただけだ。
 彫金を専門にやっていて、ジュエリーショップとやらを経営しているんだと」

「……工房? ジュエリーショップ?」

 すると先生は、くしゃくしゃと頭を掻いて、もう一度私の薬指に指輪をはめた。

「子どもができたと聞いたとき、俺は心底舞い上がった。それと同時に、怖くもなった。
 おまえが本当は、子どもなんか望んでいないんじゃないかと思ってな。
 さっき言った『魔が差した』というのはだな……子どもができればおまえを手に入れる口実ができると思って、わざと避妊しなかったというか……」

「え?」

「だから、酒の勢いを借りておまえをモノにしたというのが正しいわけだ。酔っぱらったふりをして、おまえを部屋に連れ込んだ。それが真相」

「ええ!?」

 先生は、気まずそうにそっぽを向いている。
 じゃぁ、酔った勢いなんかじゃなく、先生も最初からその気だったってこと?

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