日常に、ほんの少しの恋を添えて

初接待はビールのようにほろ苦く

 翌日。
 
 通勤途中、もの凄い強風にあおられ、転びそうになりながらなんとか会社にたどり着いた。

 朝しっかりブローした髪もすっかり乱れ、やれやれと鏡を見てちょっとだけため息をつく。

「すっげー風だったな」

 出社してきた専務が秘書室に顔を出した。

 私と同じように風に煽られたのか専務の髪がやや乱れていて、それを手櫛で直す仕草にちょっとだけドキッとした。

 ――うわ……イケメンてちょっとした仕草ですら絵になるのね。

 パソコン作業をしながらこんなことをこっそり思う。
 ここで、何気なく専務を見たら、たまたまこちらを見た専務と視線がぶつかった。


「作業中悪いね。コーヒー一杯淹れてもらえる?」
「かしこまりました」

 私はすぐさま同じフロアにある給湯室に駆け込んだ。

「えと、確か専務の好みは……」

 新見さんから教えを受けた、専務のコーヒーの嗜好を必死で思い出す。

 ――専務が好んで飲むのは”〇△珈琲”の深煎り。そして砂糖なし、ミルクなし、

 ドリップして専務のもとにそのコーヒーを持っていくと、専務はありがとう、と言って私の顔を見てからカップに口を付ける。

 じっと見てはいけないと思いつつ、私はその様子を見届けたくてその場で専務の反応を待った。

「……うん、美味しいよ」

 よかった。
 その言葉にほうっと胸を撫で下ろす。

「新見からレクチャー受けたの?」
「はい」
「正直だ」

 素直に頷いた私を見て、専務はクスッと笑う。
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