日常に、ほんの少しの恋を添えて

自己嫌悪と彼の勘

 早く部屋に入ろう、と思いながらも専務の背中から目が逸らせない。

 ――ふり、むか、ない……よね。

 何を期待しているんだろう。馬鹿な私。
 階段を下っていく専務の革靴の足音が聞こえなくなり、私は特大のため息をもらす。
 部屋の中に入り鍵をかけ、怪我をした足に負担をかけないよう、松葉杖を使ってソファーまで移動。そしてソファーに腰を下ろすと、背もたれに体を預け天井を見つめる。

 結局最後の最後まで専務に迷惑かけっぱなしだった。私ってどんな秘書なのよ。
 それに気持ちも伝えられないまま、恋が終わってしまった。

 釣り合わないのは重々承知で、両思いになれるとは全く思ってなかったけど……それでもやっぱり気持ちをを伝えた方がよかったのだろうか。
 23にもなって高校生……いや中学生みたいな恋して、私何やってんだ……

 考えれば考えるほど、ドツボにハマる。
 いつもだったらこんなときは、お菓子作りでもして気分転換するところなんだけど、今日に限っては足が気になってお菓子作りに集中できそうもない。
 仕方ない、軽くシャワー浴びてその辺にあるもの食べて、今日は早く寝よう……
 ノロノロとバスルームに移動して、足に注意を払いつつ座ったままシャワーを浴び、お茶漬けをさらさらっと胃に流し込んだ。
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