チャットで人生変わった話
私の名前は星野まりな


女には賞味期限があるという。



いつかは必ず結婚できるという漠然とした自信に不安を覚え始めるのは、早ければ20歳そこそこの頃。特にこれと言った趣味もなく、誘われるがままに出会いの場へ誘われ、ああでもない、こうでもないと言いながら毎日を惰性で過ごす女。

あるいは寂しさに押しつぶされそうになりながら、一時の温もりを求め、快楽に身を委ねる女。華々しい20代前半、「女子」と呼べるであろう限りある時間の過ごし方は人それぞれだ。


そんな中、星野まりなの箍(たが)は外れた。




千葉県出身、現在は板橋区在住の23歳。好きなものはハンバーグ。一浪して入った某美術大学を卒業後に銀座のCM制作会社にアシスタントとして勤務して一年目。

ここ数ヶ月は終電、もしくはタクシーで家に寝に帰るだけの毎日を過ごしている。新卒として入社して半年、既に同期は一人が体調不良、もう一人は鬱になって退職して行った。

 星野のモチベーションは、経費で落とせる贅沢な食事と間食のコンビニスイーツ、SNSのキラキラアカウントのウォッチング、そして毎日の就寝前の自慰行為だった。日に日に体重は増え、過度の糖分摂取と夜更かしで肌も荒れる一方だ。

 制作に携わった案件が、世間に周知される快感。まるで自分が地上波に乗るような錯覚に陥る。また輝かしい銀座という街で、最大手の広告代理店傘下の制作会社でバリバリ働く自分に陶酔していなかったと言えば、それは嘘になるだろう。

陶酔せずには居られなかったのだ。周りの実家暮らしの友人達は一般大学から一般企業の一般職に就き、毎日17:30の定時に上がり、めかし込んでは意中の相手もしくは恋人とデート。

そしてたまに夜の街に繰り出すという。星野は男が居なくても、自分は人生を謳歌できると信じていた。仕事に生きる女になれると信じて疑わなかった。胸の中にこみ上げる違和感が羨望とも知らずに、深夜3時のタクシーから外を眺める。


煌々と光る夜の街は、まるで宝石箱のようだった。
< 1 / 2 >

この作品をシェア

pagetop