おはようからおやすみまで蕩けさせて
私達、結婚しました。
(やっと大厄が終わった……)


三十四歳の誕生日を迎えた朝、鏡に映る自分の顔を見て思った。

昨日まであった重たい雲が晴れて、今朝は何だか空気が清々しく感じる。

気持ちもスッキリしているし、何か嬉しいことが始まりそうな予感がする。


(それじゃあ早目に出掛けてみるか)



駅前のカフェでカプチーノとクロワッサンサンドを食べて出勤。

いつもより空いた電車に乗り込み、オフィスビルに一番乗りするなんて何年ぶりだろう。


入社以来だとすると十二年ぶり?
そうすると一回りも前のことか。


ガラス張りのビルを外からしげしげと眺めて入り、『営業部』と掲げられたプレートのブースに行けばーー



(…残念。一番乗りじゃなかった…)



「おはようございます。天宮さん」


同じ島の斜め向かいに座るチームリーダーの天宮浬(あまみや かいり)さんに挨拶をする。
彼は同じ部署の女子達が、イケメンで仕事がデキる、と噂する男性だ。



「おはよう田端さん」


顔を上げた彼が爽やかな笑みを見せる。
切れ長の黒目が私の背中越しにある楕円形の時計を見つめ、始業よりも小一時間も早いなんて珍しい…と言いたそうに見直された。


「今朝は何だか早くに目が覚めて。折角早起きしたから商談の準備をしておこうかと思って来ました」


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