おはようからおやすみまで蕩けさせて
私の夢は貴方を溺れさせること
雨音に気づいて顔を上げたら、部屋に入って三十分以上が経過していた。
最初は天宮さんがノックする音が響いてたけど、それを無視してたら聞こえなくなった。


彼にしてみたら謎だらけだろう。
私のこの態度も気に入らないと思ってる筈だ。


それでも私にとっては大事なこと。
勘違いやその場の流れだけで決まったような結婚を、そのまま続けていっていいのか迷う。

もっと大事なことがあったんじゃないのか。
結婚する前にもっと、絆を深めておいた方が良かったんじゃないのか。

異動についてももっと話し合っておくべきじゃなかったのか。
彼が一人で勝手に動いて、私は蚊帳の外に置かれてないでーーー。


そう思ったら情けなくて涙しか出てこない。


私という人間の価値は何処に行けば認められるの?
家庭でもオフィスでもなければドコ?
何処に行けば自分として認められる……?



「結実」


トントン…とノックする音が再び聞こえ、流石に子供っぽくなり過ぎたような気がしてドアを開けた。
隙間から顔を覗かせば、ドア越しに見える天宮さんの顔はホッとしてる。


「疲れてるならこっちで甘えろよ。今夜はサービスするから」


……いやいや、私は溺愛されたいのではなくて。



「いいの。放っておいて」


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