キス税を払う?それともキスする?
奥村華side

第1話 契約する?

「僕と契約しないか?」

 突然の提案に言葉を失って、その人をついまじまじと見る。

 こんな間近でしっかり見たのは初めての気もする噂の人。

 その噂の南田は華にこう続けた。

「高い税金を払うのを躊躇しているんだろ?
 悪い話じゃないと思うんだが?」

 南田が言っているのは医療費軽減税のことだ。

 通称キス税。

 医療費削減を叫ばれる現代。

 政府は医療費軽減税なるものを打ち立てた。まことしやかにささやかれていた

「キスをすると免疫力がアップする」

 という学術的根拠も怪しい説が採用されたのだ。

 キスする者は税金を免除され、しない者は税金を払わなければならなかった。

 僕と契約しないか?の前に華は衝撃的な言葉を言われていた。
 衝撃的過ぎて耳を通り抜けていたが。

 返事を待っている南田が無表情のまま怪訝そうな声を出した。

「聞こえているのか?
 キス税を払うのが嫌なんだろ?
 だったら僕と契約して僕としたらいい。」

 空耳だろうか。おかしな話が聞こえてくる。

「おい。奥村華。…沈黙は了承とみなす。」

 なんの前触れもなく、いや…あったのだが、南田はかがんで華と視線を合わせ、そして軽く触れ合わせた。

 くちびるを。

 ピッ…ピー。南田が押した機械が反応して「認証しました」と音を出した。

 それとともに反射的に華は南田を力いっぱい押しのける。

「なっ…。」

 無表情が微かに変化した気がしたのは気のせいなのかもしれない。

 走り去る華に「おい。認証しないでいいのか?」と後ろから聞こえた。
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