【B】眠らない街で愛を囁いて
9.視えない力に苦しむ時間 -叶夢-
6月も下旬に差し掛かった頃、
私は高校生になった頃から時折感じる、
体の違和感に戸惑っていた。



一定方向を向いたときにのみ、
突然、強振系の耳鳴りが私自身を襲い掛かる。


その耳鳴りに思わず両手で耳を塞いで、
発狂しそうになりながら、通り過ぎるのをやり過ごす。




原因なんてわからない。



頭痛が続いたり、眩暈が続いたりと、
すでに眠れない日々が1週間以上続いていた。








「叶夢ちゃん、元気かい?」


田舎からのお祖母ちゃんの声も、正直今は聞きたくない。



止むことのない、この耳鳴りを抑えて?




「ねぇ、お祖母ちゃんでもお父さんでもいい。
 1週間前から、ある方向を向いた時だけ耳鳴りが酷くて発狂しそうだよ」




そうやって助けを求めた私にお祖母ちゃんは言葉を続けた。



「叶夢ちゃん、それは大自然の尊い意志が、叶夢ちゃんに何か大切なことを伝えようとしているんだよ。

 残念ながら、お祖母ちゃんはその器ではなかった。
 それに叶夢ちゃんのお母さんも。

 だけど名桐の一族には、昔から、呪術にたけた存在も居たそうな。

 平安の御代には、蔓延る鬼たちを百も退治した方もおられる。
 その能力が評価されて、百の鬼を斬るものとして、百鬼【なぎり】の名前を与えられたとも伝えている。

 それが包まれて真の意味を隠し鬼の恨みをかわぬようにと、
 術あるものが廃れてしまった時に、名桐へと隠されたと聞いている。

 だから叶夢ちゃんの能力は尊いものであって、
 決して叶夢ちゃんを追い詰めるものではないんだよ。

 
 自然の尊い意志に潰されそうになったら、
 合掌して静かに仏様に祈り続けなさい」



そういって、お祖母ちゃんは私との電話をゆっくりときった。





だけど、もう嫌っ!!




一人でいる時間は、発狂しそう。

いっそのこと発狂してしまえたらキチガイみたいに叫んでしまえたら、
どれだけ楽なのかもしれない。


だけど……私のどこかが、その一線を踏み外すことをゆるしてくれない。




眠れぬまま、掛布団を被って、夜をやり過ごし、
朝になったら布団から這い出して大学の講義、そしてコンビニのバイトへと出掛ける。




家で一人でいるよりも外の世界を感じて、
交わっている方が、その時間を僅かでも忘れさせてくれる。




ねぇ、大自然の大いなる力って何?




こうやって私の体を追い詰めて何を伝えようとしてるのよ?





だけど、そう叫びそうになる私とは別に、
自分の中に別の感情が湧き上がってくる。





ねぇ、ちゃんと考えて。



こうやって、耳鳴りが強く響いた時、
体に変調が来た時、何があった?



ちゃんと考えて?






そう……こうやって、私の体に発狂しそうな出来事が起きた時、
その一ヶ月前後で、何処かで巨大地震が起こってた。




ねぇ?

アナタハ マタ ジシンガ クルコトヲ オシエテクレテルノ?





今も大きく警告し続ける耳鳴り。
並行して、突き刺さるような鋭い体の痛み。




そんな時間が私を支配し続けて一人、
視えない力に苦しみながら過ぎ去ってくれるのをやり過ごしていた。



< 32 / 90 >

この作品をシェア

pagetop