【B】眠らない街で愛を囁いて
2.迷いの狭間で出逢った少女-千翔-
朝からB.C. square TOKYOのオフィスに顔を出して少し仕事をしてから、
東京駅に移動して、新幹線で大阪へ。


大阪での商談を終えた俺、泉原千翔【いずみはら ゆきと】は、
最終新幹線のぞみに乗るべく、新大阪駅へと急いでいた。



最寄駅の地下鉄難波駅へと向かう途中、
目の前にいるお婆さんの姿にふと足を止めて声をかける。



「お婆ちゃん、どうしたの?」

「あぁ、家に帰りたいんじゃ」

「家ってこの近く?」

「御堂筋線で帰るんじゃ」

「御堂筋線?
 俺も今から乗るけど、一緒に行こうか?」



そう言って会話を交わすお祖母ちゃんは、
次の瞬間、ふらふらと道路の方へと歩いていく。



近づいてくる車の存在に気が付いて、
慌ててお祖母ちゃんを追いかけようと足を一歩踏み出すと、
けたたましいクラクションが鳴り響いて、俺は踏み出しかけた足を静かにとめた。



その場に立ち尽くして周囲に視線を向ける。



その場所に、先ほどまで見えていたお婆さんの姿は何処にもない。


「ふぅー」っと息を深く吐き出して、気を取り直したように俺は難波の駅へと向かった。


難波駅に到着したのは、21時05分を過ぎた頃。

スマホをかざして慌てて改札口を通過してプラットホームへと降りると、
入ってきた電車へと乗り込んだ。


難波から新大阪駅まで、移動時間約16分。
もう切符は購入しているから、最終新幹線ののぞみに間に合うはずだと、
御堂筋線に乗り込んだ俺は、そっと胸を撫でおろした。


そんな安心感を奪う車内アナウンスが、停車した電車へと静かに響く。



『乗客の皆様にご案内申し上げます。
 本町にてお客様の転落事故があり、当電車は暫く停車いたします。

 お急ぎのところ大変申し訳ありませんがご了承いただきますようお願い申し上げます』


そんなコールが車内に広がっていく。
途端に、ざわつき出す電車内。

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