キミのトナリ
その時のことが物語の冒頭に書かれていた。
一ヶ月前に受けた社内健診で精密検査を受けるように通知がきた。
上司から詳しい検査を受けろと再三言われ、渋々受けた検査で癌が見つかった。
確かに体調不良はその頃続いていたけれど、単に疲労だと思っていた。
なんだかんだで俺も三十路。
無理がきかなくなったんだろうな、ぐらいに悠長に構えていた。
検査結果をきくまでは、「やっぱり異常はないってさ」という言葉とともに、彼女にはプロポーズしようと思っていた。
それがプロポーズどころか、癌宣告することになるなんて。
病院を出るまでは気丈に振る舞っていたけれど、運転する帰りの車の中で涙が止まらなかった。
今後のこと、仕事のこと、そして彼女のことを思うと、ふがいなくて仕方がなかった。
どこかで他人事だと思いたかった。
だから、その夜、彼女との夕食ではバカみたいに告げた、「ガンかもしれないんだって」と。
ガンだってことは確定だったのに、断言するのがこわかった。
バカみたいに明るくしてなきゃ彼女の前で平常心を保てなかった。
だけど、かえって彼女を傷つけてしまった。