キミのトナリ
ふがいない自分に腹が立つ。
完璧八つ当たりだ。
新幹線の中で私は声を押し殺して泣いた。
どうしてこんなことになったんだろう。
私は彼と普通に生きたいだけなのに。
夕刻、彼の入院してる病院に着いた。
トイレの鏡を見ると、ひどい顔をしていた。
必死に悟られないように何度も笑顔を作り、彼のいる病棟へ向かう。
けれど、涙がまた溢れそうになった私は談話室で一息つくことにした。
談話室には私以外誰もいない。
四人掛けの丸テーブルが四組あるうちの、一番窓際の場所に腰を下ろす。
ぼんやり外を眺めていると、二十代前半と思われるカップルが現れて、入口の自販機に向かった。
仲がよさそうで、心底羨ましかった。
「疲れた……もうイヤだ……」
二人が去っていく姿を見ながら思わず呟いた時、彼が現れた。
聴かれた?
おそらく、この時の私は顔面蒼白だったと思う。
必死で言い訳を考えていた。
彼は表情ひとつ変えずに私の前に座る。
お互いに押し黙ったまま。
彼と私はそれぞれ違うほうを見ていた。
「別れようか」
しばらく経った後、口を開いた彼が告げた。
それはあの日、ガンを打ち明けた時みたいに軽い口調だった。
だけど、あの日みたいに笑い飛ばそうとはしなかったし、反対する言葉がとっさに出て来なかった。
ウソだよ、なんて言ってくれることを私は望んでいたけれど。
その一方できっと、心のどこかでその言葉を待っていた。