俺様社長と極甘オフィス
不意打ちは程々に(困ってる?)
 昼休みが終わる前に、とエレベーターでとりあえず一階へ向かう。社長の愛車であるレクサスは地下四階に停めてあるが、目的地はさらにその下だ。そこに向かいながら私はチラリと隣にいる社長に視線を送る。

「あの、あっているかどうか分かりませんし、きちんと報告しますので、社長までいらっしゃる必要はないんですよ?」

「いいよ。田中さんにも久々に挨拶しておきたいし」

 そう言われるとなにも返せない。閃いた言葉を試すため、こうして五十二階行きのエレベーターがある管理室に向かっているわけだが、もし間違っていたらとんだ無駄足になってしまう。ただでさえ、社長は忙しいのに。

 いつも、私を気遣って極力早めに帰ろうとしてくれるけれど、帰り際に報告した案件について、翌日にはもう片付けていてくれたりする。

 飄々としていて、どこか軽いノリで。だからなかなか気づかれない。世間では当たり前のように社長の座を譲ってもらったように思われているけれど、そんなことない。

 その重責に耐えながら、見合うだけの努力をこの人は必死にしているのに。そんな中で、こうして五十二階への道を必死に探っている。

 そんな社長だから、私も力になりたいと思えたのだ。それはこの人の持って生まれたカリスマ性というか、人徳というか。
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